この人は性犯罪者の素質がある、と思った
「学生さん?」私は煙草を吸いながら、首を横に振った。
「社会人?」うん、と頷いた。
「どこ出身?僕は大阪」
「私は名古屋っすね」
「……だみゃあ!じゃん、だみゃあ!」
おじさんの、低くて静かだけれど、微かに笑いの混じった声は、蔑みも含んで聞こえた。名古屋弁を使っている人間をまともに見たことがない私は、その馬鹿にするような言い方が面白おかしくて、のけぞって、裏返るような大声で笑った。
「アハハハハハハハハ!そんな名古屋弁なんて使ってる人いないっすよ!生まれは新潟なんすけどね!」
「名古屋と新潟……って、どういうこと?何繋がり?」
私は、名古屋なんかよりも、生まれ故郷の新潟の方が、暮らしていた時間は遥かに短いのに、何故だか愛着を感じていた。私が生まれてすぐ名古屋に引っ越してきた理由も、そういえばよく知らなかった。だから、適当に誤魔化した。
「アハハハハハハハハ!分かんないっすねえ!やっぱ味噌じゃないですか?」
おじさんはキョトンとしていた。冗談混じりで、私は続けた。
「ハハハハハ!新潟の味噌はうまいっすよ。新潟は味噌もうまいし米もうまいし酒もうまい!」
日本酒なんてほとんど飲んだことはないけれど、米と酒がうまいのは周知の事実だった。味噌は世間一般にはそんなに知られてないと思うけど、多分、おいしい。私はそう思う。暫くのそんな会話のあと、おじさんは続けた。
「僕の娘と同じくらいの歳だぁ、飲みすぎないように気を付けろよ」
私は「娘と同じくらいの歳」と言われたのが余計に面白おかしくて、「アハハハハハ!は〜い!」と適当に返した。「酔わん程度にな」というおじさんの声を背にして、泥酔した私は、適当に手を振りながら喫煙所を後にした。