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欠陥人間の考えたことを綴っていくよ

性同一性障害(MtF)の私が通称名を決めて戸籍上の名を変更するまで

自分の名前が嫌だった。いかにも男性らしくて、身分証明書を出しても、「本人のものですか?」と疑われることばかりだった。病院に行けば「ご家族の方ですか?」「ご本人様はいらっしゃいますか?」とか言われるし。通称名を使うこともできるが、戸籍上の正式な名前はそのままなのでお堅い場面では使えない。面倒である。

改名をしたいとはずっと思っていたが、なかなか良い名前が決まらず、実家暮らしでは厳しいことも分かっていた。2019年になり、就職をきっかけに一人暮らしをすることになったので、その機会に使い始めようと思っていた。

名前を決める

まずはここから。名前を決めたのは2018年の秋〜冬頃。

私の元々の下の名前は、平仮名で6文字と長いので、幼い頃からだいたい「頭の3文字」+「くん」「さん」「ちゃん」のどれかで呼ばれていた。

個人的な条件としては、

  • 女性らしい
  • ケバケバしくない
  • 可愛らし過ぎない
  • 呼びやすい
  • 響きが良い
  • 今と変わらない呼ばれ方ができる
  • 画数の運勢が悪くない

などなど。姓名判断のサイトや、画数で運勢を占うサイトだったり、同姓同名の人がいないか調べたり、本屋さんで赤ちゃんの名付け本を見たり、友人と相談したりして決めた。

結果、両親から与えられた名前の最初の漢字一文字だけを残して、その後に漢字一文字を付け足した名前にした。自分で付けた名前だし、周りからの評判も良かったので、嬉しくて気に入っていた。

名前を使う

改名する前に「通称名」としてその名前を使う期間が必要。だいたい1〜3年くらい必要と言われているが、性同一性障害の場合はもう少し短くても許可が出やすいらしい。

新しい名前を本格的に使い始めたのは、2月に上京して引っ越した時。なので、使用期間としては僅か半年くらいになる。電気、ガス、水道の契約名義をその名前にして、通販や友人からの手紙の宛先、あとAmazonほしい物リストからの贈り物もその名前を使ってもらうようにした。

改名の際に資料として後々必要になるので、公共料金の明細、配送ラベルや手紙の封筒などは全てとっておいた。消印や発行日、配達指定日などの日付が入っていることや、様々な送り主からのものであることが重要らしい。これがあればいつからその名前を使っていたのか、またその名前がどれくらい認知されているのかが分かるようになる。

それから、会社にも相談して、名刺を通称名で作ってもらった。この件は本当に嬉しかった。

改名の方法について調べる

これが面倒だった。上記の使用実績の他にも必要な書類が沢山ある。具体的には、

  • 名の変更申立書(裁判所のサイトにpdfがあるので印刷して記入)
  • 性同一性障害の診断書のコピー(2人の別の医者のものをそれぞれ1通ずつ)
  • 戸籍謄本(全部事項証明)
  • 通信用の予納切手(400円分くらい。裁判所のサイトに詳細が書いてある)
  • 収入印紙800円分
  • 使用実績が分かる資料などのコピー(前項で用意したもの)

など。使用実績のコピーは取るのがかなり面倒で、スマホでスキャンした書類をPCに取り込んで、画像編集ソフトでA4の紙に並べて印刷した。A4用紙5枚程度になった。

裁判所によっていろいろなケースがあるらしいが、基本的には申立後に改名の許可が下りると、審判書謄本とやらが貰えるので、それを持って役所に行き、手続きをすることでやっと名前が変えられるらしい。

診断書をもらう

まずは都内のジェンダークリニックに診断書をもらえないかと電話で問い合わせた。人によりけりだけど、基本的にすぐ出るとのことだった。初診の予約を取って、自分史が必要とのことだったので、以前書いた自分史に少し書き加えて、印刷して持っていった。

ちなみにそのクリニックはメンタルクリニックも兼ねているので、自殺未遂を繰り返していた私は、その件についても相談した(その件についての詳細は下記の有料記事に書いてあります)。

メンタルズタボロになって眠剤100錠ODして自殺未遂した|hg0|note

先生に自分史を見せて、「半年の使用実績だと厳しいかもしれないけれど、改名以外にも使えるので、出しときますか」ってことで診断書を書いていただいた。

診察券も苗字だけ書かれており、呼ばれるときも番号札で呼ばれるので気が楽だった。診断書と初診料で合計9,000円くらいだっただろうか。なおその際に、うつの診断書も同時にいただいたので、実際に払った金額はもっと多い。

診断書が出たときは本当に嬉しかった。コピーをとって、お守り代わりに持ち歩くことにした。

それから、両親にも診断書の写真を送って、勇気を出してカミングアウトをした。電話でのやりとりだったが、私の性別に関しては実家で暮らしていた頃から察していたようで(隠しきれてなかったんだな……)、案外すんなりと受け入れてもらえた。そして、両親の連名で「名前の変更に関する同意書」を書いていただき、診断書と一緒にコピーをとった。

その後に裁判所に問い合わせたところ、あとから「別の医者の診断書が1通ずつ、合計2通必要」と言われてしまった。なので、上京前に地元で通っていたジェンダークリニックにも診断書をもらえないかと問い合わせたところ、代引で13,000円で送ってくれるとのことだった。た、高い……。高いけど楽になれると考えたら仕方ないし、そこ以外にアテはなかったのでお願いした。

地元のジェンダークリニックについての記事はこちら。

病院行ってホルモン注射してきた - hg0.hateblo.jp

戸籍謄本の取り寄せ

私の場合は現在住んでいるのが東京都、本籍地が新潟県だったので、郵送で取り寄せを依頼した。本籍地の市区町村のサイトに取り寄せ方法が書いているので、必要な書類を印刷・記入して、戸籍謄本を発行する料金分の為替を入れて、返送用の切手や封筒などを同封して郵送する。

普通郵便だと取り寄せに最大で10日ほどかかると書いてあったが、私の場合は3日くらいで取り寄せできた。改名の際、役所や銀行にも提出する必要があるかもしれないので、念の為2通取り寄せた。送料込みでだいたい2,000円程度だった。

申立をする

裁判所のサイトからダウンロードできる「申立書」を印刷して、必要事項を記入する。名前を変更する事情や理由を、長々と書かなければならない。裁判所のサイトにある見本を見ながら、書いた。

あとは、必要書類を持って家庭裁判所に行くだけ。申立には予約などは必要なくて、郵便局や銀行の窓口みたいに、番号札で順番待ちして窓口で手続きするだけのようだった。ただ、郵便局や銀行と違い、裁判所のセキュリティチェックは厳しく、空港の手荷物検査のような物々しいセキュリティゲートがあり、少し緊張した。

どれくらい時間がかかるか分からなかったので、時間を多めに取って臨んだものの、10分位であっさりと終わってしまった。

後日、面談日程についての電話がかかってくるらしい。「後日」と言われたが何日後にかかってくるかは分からなかった。

裁判所から日程の連絡が来る

お盆を挟んで、待ちに待つこと約3週間後。ようやく面談日程の連絡の電話が掛かってきた。面談の日時や場所と、必要な持ち物が告げられた。詳細は郵送するとの事だった(申し立ての時に通信用切手が必要だったのはこのため)。面談はの日程は、更に約1ヶ月ほど先だった。また待たされるのか、というのが正直な気持ちだった。

郵送で送られてきた手紙には、持ち物や面談をする場所の案内、時刻などが書かれていた。必要だった持ち物は、

  • 印鑑(申立書に押印したものと同じもの)
  • 身分証明書
  • 使用実績や診断書などの原本

の3つ。また大量の使用実績を整理して持っていくのは、正直少ししんどかった。

再び裁判所に行く

いよいよ本番。

9月某日、再び家庭裁判所へ出向いた。時間ギリギリになってしまい、急いで物々しい手荷物検査とセキュリティゲートを通る。手紙に書かれていた場所に到着すると、ほぼ同時に自分の苗字が呼ばれた。

面談をした部屋は、オフィスの会議室のような部屋で、担当の方は優しそうな年配の男性だった。恐らく、書記官の方だろう。主に聞かれたことは、

  • 手術の予定はあるのか
  • 使用実績はいつ頃からか
  • 使用実績にはどういったものがあるか(持ってきた使用実績の原本を見せる)
  • カミングアウトについて、家族や職場の人からの反応はどうだったか
  • 結婚するつもりはあるのか
  • 声はどうしているのか

など。

公共料金の明細、手紙の封筒、配送ラベル、会社の名刺などの原本に加え、クレジットカードの裏のサインや水族館の年間パスポートも通称名だったので、クレジットカードと年間パスポートも渡した(渡していいものなのか?)。書記官の方は、「使用実績が今年からだと少し厳しいかもしれませんが、そういう事なら私は(名を変更するのは)やむを得ないかなあ、と思いますね」と言った。「裁判官に伝えてきますので、お待ちください」と言われ、待合室に案内された。

待合室では既に3人ほどの人がいて、「庁舎内での撮影、録画、録音は禁止です。携帯電話は電源を切るかマナーモードにしてください」という注意書きが掲げられていた。スマホは電波が入らず圏外だった。

5〜10分ほど待っただろうか。再度、自分の苗字を呼ばれ、面談をした部屋に案内された。今度は先ほどの書記官の方と、裁判官と、もう一人の3人と話をした。

裁判官の方はわりと若い感じの男性で、仕事はいつからどんなことをしているのか、職場ではどう呼ばれているのか、家族は認めているのか、などの質問をされた。さっきとは違い、かなり冷酷な態度で、根掘り葉掘り聞かれた。

面談が終わり、「1週間から10日ほどで、結果は郵送で送ります。許可が下りたら役所で手続きをしてください」と告げられた。私は緊張が解けないまま、家庭裁判所を後にした。

審判結果が郵送で届く

裁判所で面談をした、なんと翌日のことだった。

家でのんびりしていると、郵便局の方がインターホンを鳴らした。玄関に出ると、友人からのお土産(レターパック)と一緒に、なんと「東京家庭裁判所」の文字が刻まれた封筒を手渡してきた。1週間程度掛かると言われていたのに、まさか翌日に結果が出るなんてこと有り得るのだろうか?

友人からのお土産も気になったが、まずは裁判所からのほうを見よう。まさかもう結果が出たとは思えなかったし、きっと何か他の連絡か、通称名の使用期間があまりにも短過ぎて、許可が下りなかったかのどちらかだろうと思った。それにしても封筒はやや分厚い。私は少し緊張しながら、封筒を開けた。

……中に入っていたのは、審判書謄本だった。

恐る恐る三つ折りになった紙を開くと、次のように書かれていた。

上記申立人からの名の変更許可申立事件について、当裁判所はその申立を相当と認め、次の通り審判する。
1. 申立人の名を変更することを許可する。
2. 手続費用は申立人の負担とする。

嬉しい、嬉しい……本当に嬉しい。私はやったんだ。これからは、女性の名前で女性として生きていくんだ……。そう思いつつ、記念に何枚も審判書謄本の写真を撮り、家族や職場、友人などに報告した。

それから、この審判書謄本と一緒に、通信用の予納切手で使用しなかった分(私の場合は204円だった)も返ってきた。

かくして、無事に名前の変更許可が下りた。

役所に行って戸籍を書き換える

その次の平日、区役所に行って届出をした。「戸籍の届出」と書かれた窓口で、「名の変更です」と告げて、審判書謄本を提出した。戸籍謄本も必要と言われたので、以前取り寄せた戸籍謄本も一緒に提出した。

窓口で渡された「名の変更届」という用紙に、戸籍の情報や自分の新しい名前、読み方、審判の許可が出た日付などを、区役所の担当の方と一緒に書いていった。名前を書く欄が沢山あり、変更前の名前と変更後の名前を書くところが混在していたが、これが自分の古い名前を書く最後の機会なのかもしれない、と思った。

「名の変更届」を書いて、10分ほど待った。窓口で再度内容の確認を行い、無事に届出は完了した。本籍地の戸籍に反映されるまで3週間ほど掛かるとのことだったが、住民票は今日からでも新しい名前で発行できるとのことだった。

おわりに

私の場合は、診断書と初診料、戸籍謄本の取り寄せ費用、申立などで合計25,000円程度、申立から許可が降りるまで約1ヶ月半が掛かった。それなりの金額と時間だった。けれど、これまでよりも堂々と女性として生きていけるようになったし、精神的にも少し楽になったと思う。

これにて一件落着と言いたいところなのだが、やるべき事はまだまだある。まずは、

  • 銀行口座
  • クレジットカード
  • 賃貸
  • 携帯電話
  • 健康保険

などなどの名義変更。変更前の名前が使われているところは手当たり次第潰していく必要がある。なかなか大変だ……。この機会に使ってない銀行口座やらサービスやらは解約しようかな。

それに、「戸籍上の名前は変えられても、戸籍上の性別は手術しないと変えられない」という問題もある(参考: 性別の取扱いの変更 | 裁判所)。できれば手術もしたいが、手術には200〜300万円程度掛かるし、そんなお金はいつになったら貯まるのやら……。貯まる前に朽ち果てて死んでしまうんじゃないか、と思う。

そんなわけで、死なない程度に頑張っていきましょう。

新しい名前になった私を、今後ともどうぞよろしく。